會で今後の形勢は決定するだらうとあつた。その頃、ローマではさう見てゐたのだらう。……
 しかし、今日では形勢がすでに大旋囘をしてしまつた。戰爭になるか否かは英佛側の出方一つに懸かつてるやうな氣がする。明日にも戰爭が始まらないとも限らない。しかし、容易には始まらないだらうといふ氣もした。英國大使ヘンダーソン氏がベルリンでしきりに活動してるのが、さういつた一種の安心を世間に與へてゐた。昨年の危機に較べて今度は情勢がちがふから、またミュンヒェン會議が開かれるだらうなどとは思へなかつたが、少くとも英佛側は戰爭状態に入らないですむやうに極力努めてゐるやうに見られた。
 いづれにしても、私たちとしては、月末にはパリまで引き揚げるつもりで出かけて來たのだが、それ以前に引き揚げる必要はなからうか? それをはつきり見極めて置きたかつた。それにはパリの大使館へ電話をかけて聞いて見るのが一番よいと思つたが、不自由なことに、エスパーニャからはどこへも國際電話が通じない。それで國境を越えて電話をかけようといふことになり、公使館のI君が私と車でサン・ヂャン・ド・リュズまで行つてくれることになつた。
 二十七日の午
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