ドーまでそこから約二〇〇キロ、右も左も赤松の森林がつづいて、氣持のよいドライヴ・ウェイだつた。私たちはエスパーニャへ行つた時、ボルドーで汽車を捨てて、途中で日は暮れたけれども、夕月のおぼろな中をその森林を通つたので、おほよその地理はわかつてゐた。その時、森林の中で車に故障ができて、ショファが直してゐる間、前からも後からも車やトラックが引つきりなしに駈け過ぎたものだつた。
しかるに今日はどうしたのか? だんだんとその國道第十號に近づいて行くのに、車は一臺も通らない。バイヨンヌを過ぎてからトラックを二三臺見たきりである。同乘の矢野氏にそのことを話すと、車は皆徴發されたのかも知れないといふことだつた。シンとした森の中で、今ごろは混雜してるかも知れないパリの空がいかにも遠く感じられた。
霧は刻刻に濃くなり、一キロ先は殆んど見えないほどになつた。車はスピードが出せなくなつたので、ボルドーまで行つて急行に乘り後れてはつまらないから、近くのダックスで別れようといふことになつた。
ダックスは、國道第十號と接合したところを右へ曲つて、しばらくまだ森林の中を駈けらせると、すぐ向うに現れた。
ダック
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