ギリスの動員のことを考へた。それはまだ公表されてなかつたが、事實に於いて動員されてないとは思へなかつた。サン・ヂャン・ド・リュズの文房具屋のかみさん[#「かみさん」に傍点]とバーの前に立つてゐた年寄の女の顏がまた私の目の前に現れた。
 その晩、I君に公使館の廊下で逢つた。文房具屋のかみさん[#「かみさん」に傍点]に昨日逢つたら、三番目の末の息子も召集されて泣いてゐたといふことだつた。
 ――今にフランスでは男がなくなりますよ。
 I君はさう附け加へていつた。
 ――フランスだけぢやないでせう。
と私はいつた。エスパーニャでは、戰後、女二十人に對して男一人の割合になつてることを私は思ひ出した。
 私たちは翌日パリへ立つことに決心した。その晩はよく眠れなかつた。

       三 ダックス

 次の日(三十一日)私たちは朝早く起きて出發の用意をした。用意とはいつても、エスパーニャにはスーツ・ケイスを二つ持つて來てるだけなので、わけはなかつた。
 公使の心づくしで冷酒といりこ[#「いりこ」に傍点]で門出を祝つてもらつた。動亂の巷へ見送られるといふ感懷が強かつた。公使は途中まで――ボルドーか
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