ゐた、さうして、その搖れ動きの中にしばしばまざり合つて出て來るものは、ヒトラー、スターリン、ムッソリーニ、チェインバレン、ダラディエなどの影像だつた。それから、フランコ、モーラなどの影像だつた。……
 エスパーニャでは今年の三月にやつと内亂が收まつたばかりである。國民は疲れ切つて戰爭を咀つてゐる。しかるに、中歐ではまた戰爭が始まらうとしてゐる。二十年前に今のエスパーニャの如く疲れ切つて戰爭を咀つたその國土の上で。
 私たちは車の中でもしばしばそのことを問題にして話し合つた。マドリィでも、トレドーでも、ヴァヤドリィでも、ブルゴスでも、新聞は出るごとに買つて目を通すことを怠らなかつた。ポーランドの事態は日に日に急迫を傳へられた。さうして、ヘンダーソンはいつも根氣よく動き※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つてゐた。その状態は私たちが旅に出た頃と表面は同じだつた。ただ急迫の度合がじりじりと徐徐につのつて行くのが、却つて氣味わるさを感じさせるのであつた。
 サン・セバスティアンに歸つてから手に入つたニューズに據ると、ドイツの動員はすでに五百萬に達したといふことだつた。私はすぐフランスとイ
前へ 次へ
全85ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
野上 豊一郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング