見たり、古い寺院を見たりして歩いた。
翌日(二十九日)はマドリィとトレドーを見物して、(マドリィからトレドーまで七〇キロ)、古い建築と美術と新しい戰跡に目を見張り、再びガダラマ山脈の西の肩を越してセゴヴィアに出て、そこで日が暮れて曠野の夜道をヴァヤドリィまで辿りついて一泊。此の行程約四〇〇キロ。
その翌日(三十日)はヴァヤドリィを見物して、ブルゴスに出て、もう一度ブルゴスを見直し、エスパーニャのボルドーといはれるログローニョからエステヤを通り、アルトー・デ・リサラガの壯大な景觀を賞翫して、夕方サン・セバスティアンに歸つた。
ヴィラ「ラ・クンブレ」に歸つても、その晩はまだ車に搖られてるやうな氣持だつた。茫漠たる曠野と、怪奇を極めた岩山と、ゴティクとアラビクのまざり合つた異樣な樣式の建物と、エル・グレコとゴヤとヴェラスケスの繪畫と、女・男の美しい顏と粗末な風裝と、内亂の悲慘を物語る破壞と焦土と、塹壕とトーチカと、彈丸の缺けらと鐵條網と、血痕と墳墓と、……そんなものが二重映し三重映しになつて視覺から離れなかつた。さうして、それ等のものが車の動搖と同じリズムでいつまでも目の前で搖れ動いて
前へ
次へ
全85ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
野上 豊一郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング