講義のことに頭を使つてない時は、できるだけ多くの物を見て、できるだけくわしくメモを取つて置いた。それを皆すべて整理したら、此處に集めたものの數十倍の分量にもなるだらう。けれども日本へ歸つて來るとまた忙しい生活が始まり、整理したいと思ひながら、なかなかそれもできない。そのうち次第に印象も薄れて書けなくなるかも知れないと思つてゐた時、『日本評論』に一箇年間續けて何か書いて見ないかと勸められ、初めは一箇國について一題目づつ書いて見ようと思つて書き出したのだが、一箇國で二つ書いたところもあれば、一つも書かなかつたところもある。『日本評論』以外では、『思想』『文學』『文藝春秋』『帝大新聞』に書いたものを加へた。ほかに新たに書き足したものも數篇ある。最後の『大戰脱出記』は歸朝の當時『中央公論』に勸められて書いたものを添へたのである。
 校正しながら讀み直して見ると、どうも少し囘顧的でありすぎたり、考證的でありすぎたりする傾向が目だつ。しかし、之も私の物の見方のくせだから我慢していただきたい。私は、西洋の今日の文化は過去の文化の堆積の結果だと思つてるので、それを根本から見直してみたいといふあたまが働
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