会衆の席で、女の会衆の席は前房から右へ折れた廻廊であるべきだが、今は本陣を二つに仕切り、右が男の席、左が女の席となっている。本陣の両側は型の如く側堂で、本陣の先には一段高くなって内陣(唱歌席)があり、その先の突きあたりの中央にはヘイカル(聖所)と呼ばれる半円形の壁龕になった祭壇があり、その左右に礼拝堂が一つずつある。
 入って一番に目を惹くものは、本陣の周囲に立つ十二本の大理石(内一本だけは花崗岩)の円柱と、祭壇と礼拝堂の前に置かれた木製の仕切屏風で、その上には『聖書』からの二三の事件が巧みに浮彫で描かれてあった。
 クリプトには内陣の片隅から石の階段を踏んで下りるようになっている。その階段以下が此の建物の最古の部分で、イスラエルの国から逃げて来たマリアが赤ん坊のキリストを抱いて一個月間潜んでいたと伝えられる所はその下にあるというので、私たちは下りて行こうとしたが、石段を下りきらないうちに、水が一ぱいに湛えていて立ち止まらねばならなかった。一体これは何だと聞くと、ニルの水が氾濫期になって侵入したのだとサイドは説明した。石段の中途から薄暗くなってよく見えなかったので、初めはそれが水だとは
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