まで行つても道が森の中へ入らないで、森の外ばかりを縫つてゐることであつた。さうして山の裾の右側で、日がまともに照りつけるので、暑くてたまらない。槇村君は大町桂月の紀行を讀んで來て、仰いで天を見ずといふ句があつたけれども、これでは仰いで木を見ずだと云つて不平をこぼした。道案内の人夫をつかまへて、外《ほか》に森の中を通れる道があるのではないかと聞いても、それは西湖へ出ないで船津から鳴澤を通つて行く時のことで、根場へ上つた以上は此の道より外に行きやうはないといふことだつた。それなら風穴《ふうけつ》へ出る道(これは案内記で知つた)があるだらうと云ふと、知らないといふ。無能な道案内だとは思つたがあきらめることにして、中を通つたら涼しさうに思へる深い森林をよそ目に見ながら、暑い思ひをしてやつとの事で精進湖の縁に辿りついた。その五六丁手前で、一臺のガタ馬車が後から來て私たちを追ひ越して行つた。その中にはさつきのアメリカ人らしい青年と浴衣を着た髮の赤い娘が乘つてゐた。
 湖水の縁まで下りた時には、その二人の男女は白いボートを漕いでホテルまでのまん中ほどへもう出てゐた。ホテルは對岸の突き出た崖の上に支那
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