カバンを載せたやうに載つかつてゐた。人夫が大きな聲で呼びかけたけれども、ボートは歸つて來なかつた。丁度そこに二人の村の男が立つてゐたので、それに頼んでホテルまで舟を出して貰ふことにした。村は右手の山を越えて半里ほどの所に在るから此處から普通ホテルへ行く人は大きな聲でどなるのだ。さうするとホテルの人が聞きつけてボートで迎へに來るのだといつた。のんきで面白さうだけれども、不便と云へば此の上もない不便である。ホテルまでの距離は周圍が靜かだから呼聲でも聞こえるか知れないけれども、窓に立つてゐる人が男か女か見わけがつかない位に離れてゐる。道づれの二人の青年は、私たちより少し先に來て水の傍に立つて宿屋のある村の方とホテルの立つてゐる對岸を見くらべて話し合つてゐたが、私たちが舟を雇つてゐるのを見ると、また一緒にホテルへ同行することになつた。
 此處の湖は西湖よりも一層閑寂の趣があつて、それでゐて西湖ほど陰氣でなく、――それは半分は山に圍まれてゐるけれども、他の半面が直接に裾野に續いてゐるので、――美しさから云つても一等であるが、どうしてか水が減つて(岸に一丈ほど白い所が水面の上に殘つてゐた)方々に熔
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