湖水めぐり
野上豐一郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)西湖《にしのうみ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)氣※[#「諂のつくり+炎」、第3水準1−87−64]を
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 大正八年八月四日。
 青楓君と大月に下りたのは午前九時三十三分だつた。停車場の前に並んでゐる小さい低い赤と青で塗つた平たい馬車と宿屋の前に吊してある無數の雜色の手拭みたいな講中のビラがまづ目についた。次の汽車で來る二人の同行者を待つために、私たちは濱野屋といふ家の二階の奧の間に寢ころんで、すぐ前に横たはつてゐる圓いずんぐりした山の形に感心したり、その山の向の方から吹いて來る割合に涼しい風を褒めたり、地圖を開いて見てこの邊は千二百尺に近いことを發見して、道理で風が涼しいんだと思つたり、隣りの部屋に圓座をつくつて登山の用意をしてゐる講中の群を物珍らしく眺めたり、それを青楓君は寫生したり、東京では印刷職工のストライキのため新聞が四五日休刊になつてゐたので甲府の新聞を手に取つて見る氣に
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