岩の洲が夥しく浮き出してゐた。けれども舟を漕ぐ男は、これは一時的の現象だと云つた。
 ホテルは外國人が三人(内二人婦人)と日本人が一人泊つてゐるきりであつたから、ベッドの二つづつある部屋を三つ借りることができた。廊下口から上つて行くと、家の中がからん[#「からん」に傍点]としてゐて、なんだか空屋《あきや》に入つたやうであつた。日本風の宿屋なら、先づ足を洗つたり茶が出たりするところであるが、私たちは草鞋も脚絆も解かないでぼんやり椅子にかけたまま、初めの十分間を不平を云ひながら過した。不平は皆んな足を投げ出したいといふのであつた。浴衣に着かへて廊下の手摺にでも兩足を投げ出したいといふのであつた。さうして風呂に入つて汗を流したいといふのであつた。さうして寢ころんで頬杖ついて話したいといふのであつた。それが出來ないからホテルといふものは親しみがないといふのであつた。これは日本人の生活の安易性から來た一つの習慣ではあるけれども、その場合の私たちの實感でもあつた。
 とにかくベルを押して水を取り寄せ、人の分前の少くならぬやうに氣を遣ひながら顏と手を洗ひ、それから炭酸水にウィスキをまぜて飮んだり、熱
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