がて少し平たい道になると、青楓君の馬は口綱をはづして逸早くトロットをやり出した。F君がそれにつづいた。あとの四頭は荷駄を脊負つたやうにぱッかぱッかと拾つて行く。親爺に荷駄を積んだのとどつちがいいかと聞くと、お客さんも上手に乘つてくれるといいが、たいがいなら荷物を三十貫位積んだ方がまだよいねといふことであつた。槇村君は後の方で頻りに乘り方について質問を發してゐたが、險しい上リ坂や、危ない下り坂になる度に、ハイハイと聲を立てて馬に注意を與へてゐた。それが怖い怖いといふやうにきこえてをかしかつた。けれども、道は全くひどい道で、石ころの多いことは箱根の舊道などの比ではなく、本栖《もとす》の村の入口の坂などは、後から考へて見ると、初めての經驗でよく乘れたと思はれるほどであつた。
本栖の村は寂びれた貧しげな村であつた。坂を下る時、村の屋根ごしに青い水が廣く見えた。西湖に似て、更に淋しさうに見えた。湖水の縁まで下りて見るかと云はれたけれども、誰も下りて見ようといふ者はなかつた。それほどまだ馬に慣れてゐなかつたのである。昨日精進に着いて以來煙草がなくて弱つてゐた人はその村で買はせたけれども、馬上で吹
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