けれども、いつの間にか月が落ちて湖水が暗くなつたから止めにした。さうしてまた窓ぎはに椅子を寄せて明日の旅程についてさつきのつづきを話し合つた。馬で大宮方面へ出ることだけはきまつてゐるが上井出から先は鐵道馬車があるさうだから、馬は上井出まで(六里半とも七里ともいふ)にして、大宮に泊るか、身延へ(輕便鐵道で)出るか、それとも吉原へ行つて泊るか、或ひは富士驛に出て終列車で東京へ歸るか、と云つた風に、皆んなが別別の意見を持つてゐるだけならまだよいが、一人で幾つもの意見を持つてゐる者があるので、小田原評定に終つてしまつた。それで明日《あす》の事を思ひ煩ふ勿れといふことにして十時過寢室に退いた。どの部屋にもベッドは二つあるけれども蚊帳は一つづつしかなかつた。蚊はゐないといふことをミス・六本木が保證した。少くとも蚤はゐなかつた。
 六日。
 よく眠つて六時に起きた。二人の同行者(H君とF君)はもう洋服に着かへてゐた。私は青楓君を起こして、それから向の部屋へ行つて槇村・虚山兩君を起し、大急ぎで食堂にはひつて、トーストで腹をこしらへた。オレンジのジャムがおいしかつた。食堂には朝日が一ぱいにさしこんでゐた
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