事に出てしまふだらうといふことであつた。
精進湖《しやうじこ》で景色の美しさと共に氣に入つたことは、一體の空氣の靜かさであつた。山の間の湖といふ感じは今までの内で此處が一等である。ホテルの中も閑靜で、二間ほど離れた部屋から女の聲で英語らしいアクセントが微かに漏れるのと、時時ピヤノの音が聞こえるのと、それから日が入つて珍らしい鳥の啼き聲がし出したのと、音のするのはそれきりであつた。さうして今日途中で逢つたアメリカ人らしい若い男が相變らず上衣なしの姿で、大きなパイプをくはへながら窓の下を行つたり來たりしてゐた。
食事は八時半だつた。それまでの一時間餘りを私たらは食堂の隅で雜談しながら過ごした。ピヤノと竝んだ書棚の中にはミセズ・オリファントやクロケットなどの小説が詰まつてゐた。食事は私たちだけ六人で一つのテイブルを圍み、少し離れて例のアメリカ青年と二人の婦人(若い方はキモノを餘り不釣合でなく着てゐた)が別のテイブルを圍んで、コオスは八つか九つであつた。料理はまづいけれども斯んな偏僻な山の中で肉が食へるのでみんな喜んだ。
食後に虚山君と私は向の精進の村までボートを漕いで見ようと云つてゐた
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