それを見る度に私はいつもどうしてあんな安定のないものをこさえたのかと思い、いまだに気になっている。

    五

 リヴィアの家から程遠くない所にロムルスの墓と称するものがある。大きな石を楕円形に円筒状に畳み上げたもので、ちょっと見ると空井戸かと思われるような形で、そういわれなければ墓とは気づかない。ローマ創始者の骨を埋めてある所として昔から神聖視されて来たということだが、ただ小高い岩山の上に横たわっているきりで、別に何等の礼拝の設備もしてない。
 其処から西南へ歩を進めてジェルマルスの区域の崖端に寄った所に、灰華石のアラ(祭壇)と称する壇がある。紀元前一〇〇年頃に改築したのだそうで、SEI DEO SEI DEIVAE SACRUM(無名の神に捧ぐ)と彫ってあるから、その頃すでに名を忘られていた太古の神の祭壇でもあろうか。その辺からは、すぐ下に昔のマクシムス競技場の跡(今のヴィア・デイ・チェルキ)を隔ててアヴェンティーノの山からテベレの下流を眺めるようになって、形勝の地である。
 その崖つづきを東の方へ行くと、ドムス・アウグスティナの下に当る中腹にペダゴギウム(学校)と呼ばれる建物
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