しいということになり、研究の結果そうだと認定されたもので、もしその鉛管が目っからなかったら、二千年前の単なる一市民の家として看過されたかも知れなかったのである。鉛管は今もその部屋に保管してあるが、案内人の老人はその上の文字を得意そうに私たちに読んで聞かせた。
 部屋は一階に小さいのが四つと、外に物置かとも思われるのが少し離れて一つと、二階にも幾つかあるが、二階には案内されなかったからわからない。何しろ長く土中していたのと、すべての装飾が失われているので、興味は主として割合によく保存されてる壁画の上に注がれるようになっている。
 食堂のほかに同じくらいな小部屋が三つ並んでいるが、中央の部屋(応接室だと推定されている)の壁には、窓を描いて、窓から神話の場面が眺められるような趣向が、これは昔喜ばれたものと見え、ポンペイでも同じような種類のフレスコを見た。此処のはアルグスがイオの番をしてると、メルクリウスがイオを助けようとして現れてる場面を見せたものである。鉛管の置かれてあるのはその部屋だった。
 その右隣りの部屋の壁には花と果物の花環を幾つも描いて、花環から仮面がぶらさがっていた。左隣りの部
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