も行ったような新様式の機構を持っている)が、旅行者としては、世界のどこででも見られるようなそんなものには興味は感じない。やはりオランダではオランダ的な物が見たい。同じことが日本を訪問する外国人旅行者の口から聞かれるのを私たちは知っている。東京のような近代都市は別として、京都とか奈良とかの千年以上の伝統を持った旧都では、趣のある古いものをむざむざと壊して安っぽい新しいものに取り替えるような心なき企を、妄《みだ》りにやってもらいたくないと希望するのは、ひとり外国人のみではないだろう。同じ意味で、オランダ人の中にもハーグやライデンやユトレヒトなどをば純粋にオランダ的に保存したいと熱望する者が少ないと聞いた。実際、世界中どこへ行っても似たり寄ったりの景観を持つようになったら、旅行の興味は恐らく半分以上なくなってしまうだろう。
 その点、ヨーロッパでおよそベルリンぐらいおもしろくない都市は少ないといってもよい。街衢《がいく》はよく整頓され、家屋も道路も清潔に保たれてはあるが、なんだか方程式を見るような都市で、それ以上でもなければ、それ以下でもない。旅行者としては、むしろ、割り切れないものにぶっ突
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