レンブラントの国
野上豊一郎

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【テキスト中に現れる記号について】

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    一

 オランダには三日半きりいなかったけれども、小さな国だから、毎日車で乗り廻して、それでも見たいと思っていたものはあらかた見てしまった。
 五月一日(一九三九年)の昧爽、フーク・ファン・ホランドに上陸した時の第一印象は、いかにも物静かな、どことなく田舎くさい、いやに平ったい国だという感じだった。前の晩おそく、雨の中をハリッジを出帆して、百五十マイルの航程を七時間、北海の波に揉まれて、それでもどうにか眠ることは眠ったのだが、まだ幾らか寝が足りなかったので、公使館から廻してくれた車を捜すにも寝ぼけ眼だったに相違ない。尤も、捜すとはいっても、埠頭の税関所につづいた停車場の構内には車は二三台しか見えなかったから、わけはなかったのだが。
 フーク・ファン・ホランドから首都ハーグまでは北東へ十マイルそこそこの距離
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