だった。雨あがりの空からは和やかな朝の陽光が沿道の耕地に降りそそぎ、静かな・田園的な・平坦な国土の印象がいつまでもつづいた。ハーグに入ってもその印象は失せなかった。ハーグは十八世紀までは「ヨーロッパ最大の村」といわれた。十九世紀の初葉、オランダ王となったルイ・ボナパルト(ナポレオン一世の弟)に依って都市の特権が与えられ、今日では小さいながら王宮もあれば議会もあるけれども、また、中世以来の旧市街の外に新しい近代都市的区域も出来てはいるけれども、商業がなく、産業がないためか、なんとなく田園的な空気が漂っていて、せいぜい別荘地といったような印象をしか人に与えない。ハーグ den Haag という名前――正しくいえば、S Graven Hage(伯爵の囲い地)――が示す如く、昔は領主(伯爵)の狩猟の足溜まりの場所だったのが、近代に至って政治・外交の中心地となっても、その色彩はずっと褪せなかったものと見える。
そこへ行くと、アムステルダムとかロッテルダムとかの海港都市は、近世初期のオランダ海運業の隆盛と共に発展した土地だけあって、形貌からいっても実質からいっても、一種の国際都市的特色を持ってい
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