トにも「聖書」から題材を取った画が少からずある。けれども、いわゆる宗教画と趣を異にする点は、その場合にも、彼は「人間」を描くことが本意であって、その人間の置かれた境遇を「聖書」の伝説から借りたに過ぎないことである。例えばハーグの「殿堂の披露」にしても、(それはハーグの「解剖講義」の前年、二十四歳の時の作品だが)、背景となっている殿堂の内部と大階段、大階段の上にうごめいている三四十人の人物はすべて暗さの中に退き、大階段の下に明るく浮き出している七人(赤ん坊を加えれば八人)の人物が中心である。その中でも、淡青色の長衣の胸に両手をあてて膝まずいているマリアと、彼女から赤ん坊のキリストを取って両手に抱えて、目を天の方へ扛《あ》げて膝まづいている金色の袍を着たシメオンが、主要人物である。マリアの傍に片膝を立てて鳩を持っているヨセフ、その前に立って右手を伸ばして祝福を与えている祭司の後姿、その他のラビたちは、従属的人物である。画面の右下のベンチに掛けてその光景を見ている二人の老人も従属的人物である。レンブラントのねらったところは、救世主の生誕を見て安心して死んで行かれるわが身の幸福を神に感謝するシ
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