メオンの心情と、シメオンの預言にわが子の偉大な運命を知った聖母の心情である。それが比較的小さい画面に、大幅のような構図で描かれ、明暗法や彩色法に力を入れてるので、性格描写が二の次になってるような印象を与えるが、その他の「聖書」からの画、例えば、ルーヴルの「エマオの晩餐」(一六四八年)とか、ドレスデンの「サムソンの結婚祝宴」とか、ベルリンの「サムソンとデラヤ」とかになると、殊に後の二つの如きは純然たる性格描写の作品である。
性格描写となると、やはり、肖像画の方が行動や背景の助けなしに幾らでも深く掘り下げて行く手腕を持ってるレンブラントだから、それ等を見て歩いて、天才の成長を跡づけて見ることは、楽しみでもあれば学問にもなる。ロンドン、パリ、ベルリン、ヴィーン、等、等、到る所の博物館に必ず幾つかのレンブラントの傑作は見出せるので、私は他の大家のよい作品を見て歩く間にも、常にレンブラントを捜し出すことを忘れなかった。そうして、その度に、ハーグやアムステルダムを思い出し、遂にオランダはレンブラントによって最も強く印象されるようになった。
[#地から1字上げ](昭和十四年)
底本:「世界紀
前へ
次へ
全27ページ中26ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
野上 豊一郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング