てはならない。彼等は何を見ながら話してるのだろうか? 想像を逞しうすることが許されるならば、彼等は今アムステルダムの市会議事堂に集まってるのだから、その壁板の反対の側に書かれてある格言に目をやってるのではなかろうか? 其処にはオランダの商業を当時世界的に最も信用すべき状態にまで高めた格言が記されてあった。「明確に示された事に於いては約束を竪く守れ。正直に生活せよ。情実によって判断を誤る勿れ。」これがその言葉だった。この精神がオランダの市民を高潔にし、オランダの交易を信用あるものとした。殊に毛織類の取引はオランダが世界で優位を占めていたから、その評議員たちは、取りも直さず、オランダの実業界を代表する名士たちでなければならなかった。
そう思って見ると、この画は市民生活の道義的最高精神を主題としたもので、恐らくレンブラントの後期に於いて最も熱情を罩《こ》めて描いた物の一つであろう。新興オランダの市民意識のほかに、北方人・新教徒としての民族的社会的意識も強く感じられる。結局は彼の研究題目なる「人間」の群像を描いたのであるが、そういった気質に特長づけられた「人間」を描いたのである。ハーグの「解
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