ブラントではなかった。元来彼はモデルを虐待するので有名だったが、製作に打ち嵌まるといかなるモデルも一草一木と同じようにしか思えない芸術家的心事は容易に同情される。しかしレンブラントは市井の俗人の感情をひどく損なって、大きな犠牲を払わなければならなくなった。肖像画の注文は途絶え、しばらくは風景画を描いたり、エッチングを彫ったりしていなければならなかった。
「夜警」の製作にはそういったいきさつがあったことを思うと、私も多くの鑑賞家と共に口を揃えて「夜警」礼讃をしたくなるような気持もあるが、正直のところ、私には此の画のよさがよくわからないのである。
そこへ行くと「評議員」の方はよくわかる。アムステルダムの織物商組合の五人の評議員が、ペルシア風の緋のテイブルクロスで蔽われた一つのテイブルの上に書類を置いて商議していると、後の羽目板に倚つかかるようにして一人の召使の男が無帽で立っている。召使を除く五人は皆同じ服装をして、びろうど[#「びろうど」に傍点]の黒服に白く光る平襟を附け、黒の鍔広の帽子をかぶっている。壁の羽目板の黄褐色とテイブルクロスの緋色の間に、六人の服装の白と黒が美しい対照をつくっ
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