部|端者《はもの》のように蔭に押し込められて中には顔さえも判明しないものが少くないので、大枚千六百フロリンを払って却って侮辱を買ったと彼等は思い込んだのだ。その不満が市民一般に感染し、それ以後レンブラントの名声は急に低下して行ったと伝えられている。けれどもそれはレンブラントのために弁護しなければならぬ。レンブラント以前にフランス・ハルスも(ハーレムの射撃隊組合のために)、ラフェステンも(ハーグの射撃隊組合のために)、類似の注文を受けて描いたが、しかしレンブラントは単に二十幾人の似顔を並べて描くのでは彼の芸術的本能が承知しなかった。彼は組合員の顔を材料にして一つの「画」を作り上げることに専ら興味を持った。彼はオランダの各都市の市民が自由のために武装して立った歴史を思い出して、市民の勇気を主題とする一つの「画」を作り上げることに注文を生かそうと企てた。丁度その頃は愛妻サスキアが重態の病床に就いていて彼は心を煩わされていたが、この画の完成に心を打ち込んで、憂苦をまぎらしていた。もとより組合員某某等(その氏名は画面の円柱の上に懸けられた紋章の楯の表に書かれてある)各自の気持などは眼中に置くレン
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