加速度的に心境の飛躍を感じさせるのは驚嘆すべきである。

    五

 レンブラントの作品は、他の大家と同様に、世界中に散ってしまって、本国のハーグとアムステルダムの博物館では二十三、四しか見られない。それでも大作が集まってるのと粒が揃ってるので、見ごたえがある。
 ハーグのマウリツハウスでは「解剖講義」(一六三二年)と「殿堂の披露」(一六三一年)と「サウルの前で竪琴を弾くダヴィデ」(一六六五年頃)が目立った。
 殊に「解剖講義」は一度見ると決して忘れることのできない画である。中央に裸にされた男の屍骸が仰向けに足を踏み伸ばして横たわって居り、その左腕の下膊筋だけが皮膚を剥ぎ取られて赤く露出している。その芋茎《ずいき》のような筋《きん》の束をピンセットで鋏んで示しているのはトゥルプ教授で、彼は当時オランダで一流の解剖学者であり、またレンブラントの保護者でもあった。教授の右側(画面の左側)には五人の同業者が熱心にのぞき込んでそれを見ている。屍骸を隔てて教授と向かい合った位置(画面の左の隅)には二人の男が講義を聴いている。聴講者はその背後にもまだ幾人か並んでいるのであろう。何となれば、講義
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