のであった。そのあげく暫く消息を絶っていたが、この頃になって、ズット飛んで京大阪地方に河岸《かし》を変えたらしい。やはり閑静な住宅地が専門らしく、既に二軒ほど、おなじ二人|連《づれ》の黒装束に襲われていて、一軒の家《うち》では、後家さんが絞殺され、モウ一軒の家《うち》では、留守番の男が前額を斬割られていた。
 新聞は又も思い出したように当局の無能を鳴らし初めていた。そうして一年前のK村の惨劇を振出しにした彼等の戦慄すべき兇暴な手口を、殆んど称讃せむばかりに書立てているのであった。
 睦田老人は、殆んど新聞の半面を蔽うているその長々しい大記事を読んでいるうちに、モウ、息も吐《つ》かれないくらいタタキ付けられてしまった。……モウ沢山だ……モウ沢山だ……と叫んで逃げ出したい気持になりながらも、息も吐《つ》かれぬ心苦しさに惹き付けられて読んでいる彼を……これでもか……これでもか……と押え付けるかのように、峻烈を極めた筆付きで、今までの事件の記録が繰返されてあった。そうして最後に、これ等の数件の犯罪は、その手がかりの絶無なところから、逃走の神速な点に到るまで、在来の日本の警察能力をはるかに卓越し
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