、且つこれを冷笑しているものと見るべきである。かかる残忍大胆なる犯行を防止し得ない警察当局は、ソモソモの責任をどこに持って行こうと思っているのか……といったような激越な論調で結んでいるのであった。
 睦田老人は病人のように青褪《あおざ》めたまま事務室をよろめき出た。事件後間もない或る夕方のこと、小雨の降る中を人知れず、倉川家の門前に行って、心からお詫びをした時と同じ気持になりながら……そうして今となっては同じようなお詫びをイクラ繰返しても追付かなくなった彼自身の無能な立場に気付きながら……。

 睦田老人はそれ以来、事務室へ新聞を読みに行かなくなった。五つ六つ読みかけている続きものの後段が、たまらなく気にかかるにはかかったが、しかしその間に又もや挟まれているかも知れない二人組の黒装束の記事のことを考えると、二の足を踏まずにはいられないのであった。
 彼は今日も新聞を読みに行きたいのをジッと我慢しいしい門衛の部屋に腰をかけながら、ボンヤリと火鉢に当っていた。お天気がいいので急に殖えて来た蠅《はえ》が二三匹、ブルブルンと這いまわっている汚れた硝子《ガラス》戸を見詰めていた。
 門の前の空地
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