上っていたが、その電話を本署に取次いでいるうちに……遭難した倉川家の若い男爵は、旧友の某国大使を神戸に出迎えに行った留守中であったこと……犯人はドチラも黒装束に覆面をした専門の強盗らしかったこと……倉川家の裏手のコンクリート塀を乗越える時に、電話線を切断していたこと……バンガロー風の二階の窓|硝子《ガラス》を切って螺旋《ねじ》止めを外して忍び入ったこと……夫人と小間使は眠ったままの位置で絞殺されていたこと……重傷を負わされた書生が間もなく死亡したこと……物置に隠れて震えていた台所女中が、夜の明けるのを待って、お隣りから分署に電話をかけたこと……そのほかは一切不明……といったような事実が判明して来た。
彼は非常召集を受けた巡査たちが、自宅から直接に現場へ行く姿を、真白な霜の野原と一所《いっしょ》に思い浮かべた。そうしてそんな連中が、無能な自分を怨んだり、冷笑している顔付きまで想像してみた。それから事件が万一迷宮に入った場合に、当然自分に落ちかかって来るであろう運命に就《つ》いて、くり返しくり返し考えてみたが、しかし、それはイクラ考え直しても、わかり切った事であった。
睦田巡査はポケッ
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