…そうとも限らないが、人を殺したら死刑になるだろう」
「ブルブル。真平《まっぴら》だ。危ねえ思いするより、この方が楽だあネエ旦那ア……」
「そうともそうとも。しかし……その男……丹六とかいう男は人を殺したのかね」
「……………」
鬚男は返事をしなかった。ビックリしたように眼をマン円《まる》く見開いて睦田老人の顔を見たが、忽ち首をキュッと縮めて、眼をシッカリと閉じて、長い舌を、ペロリと鬚の間から出した。……と思うと一瞬間にモトの表情に帰って眼を剥《む》き出しながら、
「エヘヘヘヘ……」
と卑《いや》しい笑い方をした。
そんな表情を見たことのない睦田老人は、思わずゾーッとさせられた。しかし一生懸命に注意力を緊張さしていたおかげで、その表情の意味だけは、わかり過ぎる位わかった。そうして吾《われ》知らずカーッと上気したまま、鬚男の笑い顔を穴の明《あ》く程、凝視したのであった。
それから十分と経たないうちにタッタ一通話の市外電話を受取った警視庁は俄然として極度の緊張振りを示した。
すぐに刑事を製作所に走らして、まだ日陽《ひなた》ボッコをしていたルンペンの鬚男を引致《いんち》すると同時
前へ
次へ
全19ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング