な泣き顔みたようなものになってしまったことを意識した。
「フーン。荒稼ぎというと泥棒でもやるのかね」
「何だってすらア。本職に雇われて見張りでもすれあ十日ぐれ極楽ダア。トッ捕まってもブタ箱だカンナ」
「ウーム。中には本職に出世する者も居るだろうな」
「たまにゃ居るさ。去年まで一緒に稼いだタンシューなんざ、品川の女郎《アマッペ》引かして、神戸へ飛んだっチ位だ」
「……ナニ……何という……神戸へ……」
睦田老人の声が突然にシャガレたので、三人のルンペンたちが妙な顔をして振向いた。睦田老人は慌てて顔を撫でまわしたが、その時に自分の額がジットリと汗ばんでいるのに気が付いた。彼はわざとらしい咳払いを一つした。
「フムー。エライ出世をしたもんだな」
「ウン。野郎……元ッカラ本職だったかも知んねッテ皆《みんな》、左様《せい》云ってッケンド……いつも仕事をブッタクリやがった癖に挨拶もしねえで消《け》えちまった罰当《ばちあた》りだあ。今にキット捕まるにきまってら」
「フーン。ヒドイ奴だな、タンシューッて奴は……」
「丹六って奴でさ。捕まったら警察で半殺しにされるんでしょう……ネエ旦那……」
「……そ…
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