りながら、出来るだけ巡査口調を出さないようにして話しかけた。地面に投棄てられた金口の煙草を指しながら……。
「そんな金口は、どこから拾って来るかね」
「コレケ」
 と鬚男は破れたゴム靴の片足で、その煙草を踏み付けながら答えた。
「これあ盛り場から拾《ひ》らって来《く》んだ。別荘町だら長《なげ》えのが落ちてるッテッケンド、俺《おら》、行ったコタネエ」
 鬚男は腹からのルンペンらしく、彼等特有の突ッケンドンな早口で、彼等特有の階級を無視したルンペン語を使った。巡査時代に乞食を取調べた経験を持っている睦田老人でなかったら、到底聞き分けることが不可能であったろう。睦田老人は何となく胸の躍るのを禁ずる事が出来なかった。
「フーム。君たちの仲間で、わざわざ別荘地へ金口を拾いに行く者があるかね」
「居《い》ッコタ居《い》ッケンド、そんな奴等、テエゲ荒稼ぎダア。コットラ温柔《おとな》しいもんだ……ヘヘヘ……」
 鬚男は黄色い健康な歯を剥出《むきだ》しながら、工場《こうば》の上の青空を凝視した。
 睦田老人は強《し》いてニコニコ顔を作ろうと努力したが出来なかった。顔面の筋肉が剛《こ》わばってしまって、変
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