イこの間の事だ。香港の奥の支那酒場《チンク》の隅ッコで、野郎等二人が飲んでいるところを発見《めっけ》たから大勢のマン中で毒気を吹っかけてくれた。散々《さんざっ》パラ罵倒して、二度と俺の顔《つら》を見られないくらい恥を掻かしてくれたもんだが、それでも野郎等、反抗《てむかい》もしなければ船を降りもしなかった……ノメノメと船長のポケットにブラ下って帰って来やがった……アンナ奴は船乗仲間の面《つら》よごしでこの船の穢《けが》れになるばかりだ……船長もヤキが廻ったらしいからこの船もオシマイだろう……俺がオン出るか船長をタタキ出すか二つに一つだろう……今に見ろ……ドウスルカ……」
 ……といったような事を喘《あえ》ぎ喘ぎ云いながら水夫長は、寝台《ベッド》の上に引っくり返って、ブランデーをガブガブと喇叭《らっぱ》飲みにしていた。
 そうした事情がアラカタわかると、私はソッと室《へや》を辷《すべ》り出た。この仲裁は場違いだと思ったから……。
 船長はまだ食堂に残っていた。自分の椅子に反《そ》りかえってマドロスを吹かしながら、マジリマジリと天井のランプを仰いでいたが、私が傍を通っても眉一つ動かさなかった
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