状《パスポート》と一所《いっしょ》に、チャント肌身に付けていたので、然るべき身分の者と思われたらしく、何もかも大切に……蘇蘭《スコットランド》製のコルク・チョッキまでも一緒にして事務長の手に保管して在るから、安心して養生なさい……と云うのであった。
私はそれから急に元気付いた。
ブーレー博士が質問するまにまにポツポツと遭難談を初めたものであるが、話が二人の水夫の幽霊のところまで来ると、不思議にもブーレー博士が一層熱心になって、鼻眼鏡をかけ直しかけ直し謹聴してくれた。そうして話が終ると、ボーイが持って来た美味《うま》い玉子酒をすすめながらコンナ事を云い出した。
「……ヤ……お疲れでしたろう……ところで私はこうして船医を専門にする片手間に、海上の迷信を研究している者ですが……既に二三の著書も刊行しているような次第ですが……その中でも貴方《あなた》のような体験は実に珍らしい実例であると信じます。その幻覚と、現実との重なり合いが劇的にシックリしているばかりでなく、色々な印象が細かい処まで非常にハッキリしている点が、特に面白い参考材料であると思います。……勿論……その幽霊の正体なるものは、学
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