理的立場から見ますと、極めて簡単明瞭なものに過ぎないのですが……」
「……エッ……簡単明瞭……」
と私は思わず叫び出した。流石《さすが》は独逸の学者だけあると感心しながら……。
ブーレー博士は厳《おご》そかにうなずいた。
「……そうです。極めて簡単明瞭な現象に過ぎないのです。お話のような幽霊現象は、遭難海員が屡々《しばしば》体験するところですが、実は、その遭難当時に感得した、一種の幻覚錯覚に外ならないのです」
「……というと……ドンナ事になるのですか」
「……という理由は外《ほか》でもありません。貴方《あなた》はこの船に救い上げられる前後に、暫くの間失神状態に陥っておられたでしょう。現にこのベッドの上に寝られてから今までの間でも、既に九時間以上を経過しておられるのですがね」
「九時間……」
「そうです。……ですから……その間に貴方の脳髄が描き出した夢が、貴方の現実の記憶と交錯したまま、貴方の記憶の中に重なり合って焼き付けられてしまったのです。ちょうど写真の二重曝露式に、シックリとネ……勿論それは極度の疲労と衰弱の結果であることが、学理的に証明出来るのですが……」
「……プッ……バ…
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