合わせた。
云い知れぬ恐怖が船全体に満ち満ちた。
眼のまわる程忙がしいのをソッチ除《の》けにして、あらん限りの火薬を集めて、あらん限りの爆竹が作られた。船員の中で出られる限りの者は皆、船首に集まって手に手に爆竹を鳴らしながら二人の霊を慰めた。
潮飛沫《しおしぶき》に濡れたのはそのまま海に投込んだ。空砲も打った。短銃《ピストル》も放った。
その音は轟々と吹く風に吹き散らされ、※[#「てへん+堂」、第4水準2−13−41]々《どうどう》と崩れる波に入り乱れて物凄い限りを極めた。
けれども、結局この船に付いた怪痴《けち》を払い除ける事は出来なかったらしい。
出帆してから一週間目に来た、その大|時化《しけ》の最高潮に、メイン・マストも、舵《かじ》も、ボートも、皆遣られた丸坊主のピニエス・ペンドル号は、毅然としている船長と、瀕死の水夫長と、狼狽している船員を載せたまま、グングンと吹き流され始めた。そうして一日一夜の後《のち》に、どこともわからない海岸に吹き付けられて難破してしまった。
私は水夫長の救命胴着《コルク・チョッキ》を身に着けて、真暗な舷側から身を躍らせた。
それから暫
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