クリユックリ断言しながら、食堂のマン中に引返した。すると、その左右から二人の運転手が近付いて、私と一緒に見た通りの幽霊の姿を報告し初めたので、皆眼を光らして聞いていたが、しかし船長は苦り切ったまま眼を閉じて、腕を組んで棒立ちに突立っているキリであった。そうして二人の言葉が終っても暫くの間、おなじような状態を続けていたが、やがて青い眼をパッチリと開くと、天井の一角を睨みながら薄笑いをした。
「……フフン……恩を仇《あだ》にしやがるんだな……フン。連れて行くなら行ってみろだ。水夫長は死んでも新嘉坡《シンガポール》まで持って行ってくれるからな。アームストロングの推進器《スクリュウ》と、貴様等の幽霊の力とドッチが強いかだ……フフン……」
二人の運転手が同時に肩をユスリ上げた。申合せたように青白いタメ息を吐《つ》いた。
船長はその場で命令を下して水夫長の身体《からだ》を、下甲板に在る船長室のスグ横の行李《こうり》部屋兼、化粧室に移させた。あとの消毒と水夫長の介抱は私が引受けたが、これは皆から強いられぬ先に申出たものであった。
スッカリ片付いた時は日が暮れていたが、同時に嵐の前兆もイヨイヨ
前へ
次へ
全28ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング