シタ」「……どうしたんだ……いったい……」
 と口々に叫びかけながら走り込んで来た。その中には、私達三人を幽霊じゃないかと疑った慌て者も居たそうであるが、これは考えてみると無理もなかった。本物の幽霊はピストルの烟《けむり》と一緒に消え失せてしまって、アトにはウンウン藻掻《もが》いている水夫長の肉体だけが残っていたのだから、説明の仕様がなくなった三人が、三人とも、思い切った珍妙な顔をしていたのは当然である。
 その水夫長の額や手足は、火のように熱くなっていた。取り巻いた連中は皆、チブスに違いないと云いながら処置に困った顔をしていたが、そういううちにも水夫長は真鍮張《しんちゅうば》りの敷居に必死と獅噛《しが》み付いたまま……
「勘弁してくれ勘弁してくれ」
 と叫び続けた。
 後から這入って来た船長が、そうした水夫長の姿をジッと見下していたが、やがて、超然たる態度で咳払いを一つした。
「……三人が飲んだというアノ支那人《チンク》の酒場が怪しかったんだナ。……俺はソウ思う。……厄病神がドッカの隅に隠れてやがったんだ。……そうして三人に取憑《とりつ》きやがったんだナ。俺はソウ思う……」
 とユッ
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