入れて、松脂《チャン》やタールでコチンコチンに塗り固めて、大きな銑鉄《せんてつ》の錘《おもり》を付けて、確かに海の底へ沈めた筈の二人の水夫に違いなかった。
青い夏服をキチンと着た二人の姿は、消毒された時と一|分《ぶ》一|厘《りん》違ってはいなかった。向って右側に立っている水夫の鼻の横に出来ている疵口《きずぐち》が、白くフヤケた一寸四方ばかりの口を開いている向うから、奥歯の金冠が二三本チラチラと光っていた。その疵口は水夫長が手ずから強いアルコールで拭き浄めてやったものであった。
その水夫は私の顔を見ると、二つの口を歪《ゆが》めてニヤリと笑った。そうして明瞭な英語で、
「……水夫長を連れて行きますよ」
と云った。その声は二人の運転手も一緒に聞いたのだから間違いない。口の横に大|怪我《けが》をしている人間とは思えない、ハッキリした、静かな口調であった。
……轟然一発……。
私は自分の頭が破裂したのかと思った。振り返ってみると、それは一等運転手が、私の背中越しに、二人の水夫を目がけてピストルを発射したのであった。給仕、水夫、コック、船長などがその音を聞き付けたらしい。
「ドウシタドウ
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