皆は又ハッとさせられた……ところが間もなく、その水夫長が片手に小さな提燈《ランタン》をブラ下げて出て来たので、ホッとした連中が訳もなくアトからゾロゾロとクッ付いて行った。だから私も何の気なしに先を争って行ったが、アトで止せばよかったと思った。
チャンコロ部屋というのは船尾の最下層に近い部屋で、ズット以前に支那人の奴隷を積んだ寝床の取り崩し残りを、荒板で無造作に囲んだものであった。その真暗な蚕棚《かいこだな》式の寝床の間を、突き当りまで行った処で、ランタンの赤い光りが停止している。それを目標にしてタマラナイ異臭がムンムンと蒸《む》れかえる中を手探りして行くと、そのうちにヤット眼が慣れて来た。
一人の水夫は上半裸体の胴体を、寝床の手摺に結び付けたまま、床《フロア》の方へ横筋違いにブラ下っていたが、左手の関節が脱臼するか折れるかしたらしく、ブランブランになって揺れていた。それから今一人は、これも半裸体のまま床の上に転がり落ちて、蚕棚の下を嘔吐《は》き続けながら、ズット向うの船底《ダンブル》の降り口の所まで旅行していたが、どこかに猛烈に打《ぶ》つかったものと見えて、鼻の横に大きな穴が開いて
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