ハハハ……ところで如何です……紅茶をもう一ツ……」
「……ハ……ハイ……」
と青年はやっと頭を下げて返事をしかけたが、そのまま生唾液《なまつば》を嚥《の》み込むと、まだ口を利くのが怖いという風に舌なめずりをしいしいそこいらを見まわした。そうして室の中に誰も居ない事がわかると今一度、不思議そうにドクトル[#「ドクトル」は太字]の顔を見直しながら、オズオズと唇を動かした。
「……私は……もう二度と……コンナ眼に会って……顎を外そうとは思いませぬ」
「ハハア……成る程……それでは乱暴者にでもお会いになりましたので……」
「イヤそのようなノンキな事では御座いません」
「……では大きな欠伸でも……」
「イヤイヤ。欠伸でもクサメでも何でもありませぬ」
「ホホー。それは妙ですナ。今までの私の経験によりますと顎を外した原因というのは大抵欠伸か、クサメか、大笑いか、喧嘩なぞで、その以外にはラグビー[#「ラグビー」は太字]、拳闘、自動車、電車の衝突ぐらいに限られているのですが……そんな事でもないのですナ……成る程……してみると余程、特別な原因で顎をおはずしになったのですな……それでは……」
青年は老ド
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