シッカリと抱き締めました。
「サアサア、お父さんだよお父さんだよ」
と揺すり上げながら、思い切り頬ずりをしようとしましたが、その私のチョッキ[#「チョッキ」は太字]の上を、思いもかけぬ力強さでメチャクチャに蹴立てた赤ん坊は、又も焦げ付くように泣き藻掻《もが》き初めました。
「ウギャー。ウギャー。オヤア。オヤア。ヒヤアヒヤアヒヤア。フニャーフニャーフニャー」
私は赤ん坊を抱えたまま、棒のように立ち竦《すく》んでしまいました。余りの事に途方に暮れながら、割れるような法廷の動揺の中にレミヤ[#「レミヤ」は太字]の顔を見返りますと……これは又、どうした事でしょう……。レミヤ[#「レミヤ」は太字]は法廷の床の上に転び落ちて、美しい顔を引き歪《ゆが》めながら、虚空を掴んで悶絶しているでは御座いませんか。しかも、それと同時に背後の方で、
「……ああ……神様よ……おゆるしを……」
という奇妙な声が聞こえましたので、思わずその方を振り向いてみますと、傍聴席のズット向うの壁際で、一人の黒い服を着た老人が失神しかけているのを、左右に座っている人が支え止めている様子です。……そうしてその顔をよくよく見ま
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