うとは夢にも知らずに、第一の籤を引いたのでスッカリ自信が出来たらしく、満場の息苦しい注目の裡に大得意でレミヤ[#「レミヤ」は太字]の傍に進み寄って、スヤスヤと眠っている赤ん坊を出来るだけソーッと抱き取ろうとしましたが、弟の手が身体《からだ》に触れたか触れないかと思ううちに赤ん坊は、早くも眼を醒ましたものと見えまして、身体を弓のように反《そ》りかえらせながら火の付くように泣き出したのです。
「オヤア。オヤア。オニャオニャオニャ」……と……。その時の弟の顔は何と形容したらよろしいでしょうか。魂がパンクした表情とはあのような顔付きを云うのでしょうか。レミヤ[#「レミヤ」は太字]の膝の上に赤ん坊を取り落したまま、射抜かれた飛行船のようにフラフラと回転したと思うと、バッタリと床の上にヘタバリたおれてしまいました。
満場のドヨメキの中に弟の身体が運び出されますと、私はもう嬉し泣きの涙で向うが見えなくなってしまいました。その涙を払う間もなく無我夢中でレミヤ[#「レミヤ」は太字]に飛び付いて、人眼も恥じずキッス[#「キッス」は太字]の雨を降らせますと、又もスヤスヤと眠りかけている赤ん坊を抱き上げて、
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