したが上にもビックリしたらしく、青い顔を一層青くしてドクトル[#「ドクトル」は太字]の顔を睨み返しながら、物云いたげに舌の先を震わしたが、かの時遅くこの時早く、老ドクトル[#「ドクトル」は太字]が「ハッ」と気合いをかけながら、両手で掴んだ下顎を力一パイ突き上げたので……ガチーン……と音を立てて患者の奥歯がブツカリ合った。……と思うとその次の瞬間にはピッタリと閉まった口の上をハンカチ[#「ハンカチ」は太字]で蔽うた患者が、今にも気絶しそうに眼を閉じたまま、涙をポロポロと流していた。
「アハハハハ。どうです御気分は……もう嘔気はなくなったでしょう。誰でも顎を外すと、舌圧器で押え付けられたのと同様の作用を舌の根の筋肉に起して、多少の嘔気を催すものですがね。しかし貴方のように猛烈なのは珍らしいですよ……全く……ハッハッハッハッ……」
こう云いながら老ドクトル[#「ドクトル」は太字]が室の隅で手を洗って帰って来ると、患者はやっと眼を開いて眼の前の空間を見まわした。そうして看護婦が持って来た塩水で恐る恐る含嗽《うがい》をして、すすめられるまにまに熱い紅茶を一杯飲み終ったが、やっと気が落ち付いたら
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