っているのを見ても、春に先立って地下茎が芽ぐむのを見ても、その他一切の造化の微妙な作用を観察するに付け聞くにつけて、何かしら人間の五官を超越した、或る偉大なる『霊感』の存在を肯定せずにはいられないのである。
 しかも、これが動物となると一層吾々人間の注意を惹き易いので、その最も顕著な実例だけでも殆んど枚挙に暇《いとま》がないくらいである。……たとえば七面鳥は山の向うに鷹が来ている事を知って雛鳥を蔽い隠し、駱駝《らくだ》は行く手の地平線下にライオン[#「ライオン」は太字]が居るのを知って立ちすくむ。蜘蛛《くも》は明日の晴天を確信して風雨の中に網を張りまわし、蛭《ひる》は水中に在りながら不断に天候の変化を予報する。その他、馬が乗り手の上手下手を只一眼で区別し、猫が猫好きを選んで身体《からだ》をスリ付けるなど、一々挙げて行くのはその煩に堪えないであろう。すなわち換言すれば、吾々人間は余りにその五官の働らきに信頼し過ぎている結果、こうした本来の霊感の作用を退化させているので、下等な生物になればなる程、斯様《かよう》な霊感が発達している事は、所謂文明国人と野蛮人のソレとを比較しても容易に首肯され
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