は社会生活上あらゆる不都合を生ずる事になるので、この一事を以てしてもこの事件は一日も早く解決しなければならぬ事になる。本官が所謂《いわゆる》、第二の解決法を提唱して当法廷列席者諸氏の賛同を求むる所以《ゆえん》も亦、実にここに存するのである。
 本官の所謂第二の解決法というのは外でもない。すなわち一切の生物に共通して存在する『霊感』を応用する方法である。
 この生物の『霊感』なるものは今日のところではまだ科学者諸氏の間に、纏まった研究が行われていないようである。……が併し、その存在は確実に認められているので、強《あなが》ちに学者諸君に限らず、普通人と雖《いえど》もよく眼を開いて見る時は、地上到る処に『霊感』の存在を認める事が出来るのである。
 植物に於ては、眼も鼻も口も持たない草木の根が、壁一重向うの肥料の方へズンズンと伸びて行く。又は同じように五官を持たない蔓草の蔓が、支柱の在る方へサッサと延長して行くのも同じ道理で、何かは知らず一般生物界には、人間の五官以上の霊感が存在している事を気付かずにはいられないのである。そのほか林の樹々の枝が、決して摺《す》れ合わないように一定の距離間隔を保
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