させた上で、双方の主張を聴取る段取りになりますと、私の方の弁護士がタッタ一ツ取っておきの「兄の権利」を主張してマチラ[#「マチラ」は太字]の主張を押え付けようとするのに対して、相手側の弁護士は「双生児の兄と弟を区別する事は出来ない筈である。従来のように後から生れた方を兄と認めるのは要するに迷信的な判別法で、医学上ではドチラが兄か弟か区別出来ない事になっている」という事実を専門家の説明付きで主張して一歩も後へ引きません。……それでは二人の父親の血液を採って、赤ん坊の血液と比較研究して、ドチラかに近い方の血液の持ち主を本落の親と認めてはドウかという事になりましたので、取りあえず私達二人の血を採って調べてみますと、これが又生憎と揃いも揃った同類同型の血液で、赤ん坊の血清に対する反応も隅から隅まで同一なのです。……では指紋でもいいから似通った方を親子と決めようというので双方同意の上で調べてもらいますと、これは又兄弟とも全然型が違っている上に、赤ん坊の指紋は又飛び離れた形になっておりますので、これも問題にならなくなりました。
 こうして裁判官も弁護士も、それからこの裁判のために特別に召集されまし
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