行き詰まってしまいました。
 けれどもその行き詰まり状態は、以前のような遠慮や妥協の利く行き詰まり状態とは全然程度が違っておりました。
 その児は男の子に有り勝ちの母親|肖《に》で、実に可愛らしく丸々と肥っておりましたが、どうしたものか生れ落ちると間もなく、母親以外の誰が抱いても承知しなくなりましたのでレミヤ[#「レミヤ」は太字]はもう有頂天になって可愛がっているのです。私達もそれを見ますと直ぐにも抱き上げて頬擦りしてみたい衝動で一パイになるのですが、まだどっちの子とも決定《きま》らない以上どうする事も出来ません。ウッカリ先に手でも出そうものならその場で決闘が初まりそうな気がするのです。そこで、もうスッカリ破れかぶれになってしまった私達兄弟は、間もなくこの町で一流の弁護士を頼んで、一か八かの勝敗を決定してもらうべく、双方から同時に訴訟を提起する事になりました。
 ところがこの裁判の係長を引き受けた人は、この界隈でも名判官の評判を取っているテロル[#「テロル」は太字]、ウイグ[#「ウイグ」は太字]という主席判事で御座いましたが、事件の性質上、裁判の内容を絶対秘密にする旨を関係者一同に宣誓
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