て来たその嬉しさ……と思うと又、何事もなくその週間を通過して行くその恐ろしさ。
思いは同じ弟も、同じ下宿の闇黒の中に眼を瞭《みは》りながらジット時計のセコンド[#「セコンド」は太字]を数えている気はいが、一所に眼を醒ましている私にアリアリと感じられるようになりました。
こうして予定から一箇月も遅れた昨年の十月の末の火曜日にレミヤ[#「レミヤ」は太字]はやっとの事で、玉のような男の児を生み落したのですが……しかし、どうでしょう……それから約束の二百八十日を逆に数えてみますと……ナント驚くべき事には、その日は私の週間でもなければ弟の領分でもない……ちょうどレミヤ[#「レミヤ」は太字]が教会に行って、二人が下宿に休んでいる、その日曜日に当っているでは御座いませぬか。……私たちが二百八十日という日数を定めましたのは医者の書物に書いてある普通の女の姙娠期間を標準にしたものですが、それがコンナ皮肉な結果になろうとは誰が思い及びましょう。……イクラ神様の思し召しでも、これは又余りに残酷な……イタズラ小僧の思い付きとしか思えない思し召しようでは御座りませぬか。
私たち三人の運命はお蔭で又も完全に
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