た陪審員たちまでも、ドン底まで行き詰まってしまう一方に、赤ん坊は誰も名前の付けてやり手がないまんまズンズンと大きくなって行きます。そのうちにこの裁判の秘密が、どこから洩れたものかわかりませんが、だんだんと評判になって参りまして、方々の新聞がヨタ交《まじ》りに書き立てるようになりました。すなわちこの裁判が、どうなるかという事は全世界の裁判史上に一つの大きなレコード[#「レコード」は太字]を止《とど》める意味になりますので……しかも、このまま無期延期にするとか、双方の示談にするとかいう事は、絶対に不可能というのですから、新聞が飛び切りの題目として、徳義を構わず書き立てるのは無理もない事と思われます。

       (6)[#「(6)」は縦中横]

 名裁判長ウイグ[#「ウイグ」は太字]氏は、こうした形勢を眼の前に見ますと、今までの行き詰まりの一切合財を総決算的に引き受けた気持ちになって、モノスゴイ苦心を初めたらしいのです。その証拠には殆んど裁判|毎《ごと》に、その鬚が白くなって行くように見えたのですが、しかし、それと同時にウイグ[#「ウイグ」は太字]氏は、この裁判を自分の名誉にかけても片
前へ 次へ
全54ページ中40ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング