是非ともお伺いしたいものですが……治療上の参考になるかも知れませんから……」
青年は老ドクトル[#「ドクトル」は太字]からこう云われると、又も耳のつけ根まで真赤になって、さしうつむいてしまった。そうして上眼づかいにチラチラとドクトル[#「ドクトル」は太字]の顔を見上げたが、やがて悲し気に眼をしばたたいた。
「ハイ。私も実はこの事を先生にお話ししたいのです。そうして適当な御判断を仰《あお》ぎたいのですが……しかし……私がこの事を先生にお話した事が世間に洩れますと非常に困るのです。ハルスカイン[#「ハルスカイン」は太字]家……彼女の家と、イグノラン[#「イグノラン」は太字]家……私の家の間に絡まるお恥かしい秘密の真相が、私の口から他に洩れた事がわかりますと……」
「イヤ……それは御心配御無用です。断じて御無用です」
と云いながら老ドクトル[#「ドクトル」は太字]は、いつの間にか昂奮してしまったらしく自烈度《じれった》そうに拳固を固めて両膝をトントンとたたいた。
「その御心配なら絶対に御無用に願いたいものです。患家の秘密を無暗《むやみ》に他所《よそ》で饒舌《しゃべ》るようでは医師の商売は
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